VOICE

俳優
中井 貴一

我々の仕事は、嘘である。

そんな言い方をすると、嘘つき集団のように聞こえてしまうかもしれないが、
いかに嘘をそれらしく見せていくか。

これが、本業なのである。

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いつの頃からかテレビドラマの後に必ず「このドラマはフィクションであり~」
の文言が入るようになった。
私に言わせれば、ドラマは最初から作り物であるという前提で
制作されているものでもあるのだから、実話に基づいた内容に関してだけ
「このドラマの内容はノンフィクションであり~」という文言が入ることの方が
自然に思える。

現在、世の中で当たり前のように使われている「コンプライアンス」という言葉も、
見手と作り手、相互の信頼関係が希薄になったことにより生まれてきた。
嘘を楽しむ為には、粗を探すことよりも、粗を楽しむ事を覚えて頂きたいし、
作り手も、いかに粗が気にならない様、上手に作っていくかをしっかり練らなければ
ならない。つまり、バランス。そのバランス感覚、相互の信頼を取り戻さねば、
ドラマの未来は、決して明るくはならないであろう。

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メイク、衣装は、最も役者の側にあり、役者の役作りに大きな影響を
与えるものである。ここ数年、カメラの解像度は飛躍的に上がり、見えなくても
良いところまで、見えるようになっている。
スポーツ、自然を写すのには最適かもしれないが、ドラマに関しては
如何なものであろう。現場でスタッフたちは、いかに写しすぎないようにするか、
画に表情を出させていくかに四苦八苦している。

そこで、役者にとって最も大切になってきたのが、これも飛躍的に技術が
向上してきた、特殊メイク‼

この技術の向上により、写りこむ事への心配が軽減され、若い俳優一人が、
若年から老年までを、違和感なく演じる事が出来るようになった。
機械の向上に対抗するのは、ある意味、人間力。
メイクアップアーティスト達の技術力、センスなのである。
この力を武器に、これからも、良い嘘を提供出来るよう互いに努力を続けたい。

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私個人の願いは、いずれ、時代劇の和カツラを、特殊メイクの力により、
よりリアルで被りやすく、動きやすい物に形を変えて行く事。
そして、最終的には、特殊な時に呼ばれる特殊メイクという名称から、
当たり前のように現場にいるメイクアップアーティストとなり、

共に夢のある嘘を作り続けることである。

謝辞
中井さんとは老けメイクのお仕事が最初でした。
その後、作品的には何作品かご一緒することがあり、身近に特殊メイクを見て少しずつ進化している特殊メイクをある意味見守って下さっていたのだと思います。
役者さんから応援されることほど嬉しく心強いことはありません。
これから益々進化していく映像の世界で頑張っていく勇気をありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。